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 「バルトロメ・ジョゼッペ・バティスタ・ガルネリ」(通称「デルジェス」)は、ガルネリ一族の中でも突出した天才でした。
 当時はクレモナの栄光を築いた、「ニコラ・アマティー」の弟子達が君臨していた時代ですが、デルジェスは当時、誰も考えなかった斬新な概念で、全く違ったスタイルの楽器を製作し、文字通り唯一無二の創造性と、確固たる個性を創造しました。そのため、当時はまったく認められる事がなかったのですが、その個性の強さや、独特の深い芸術性に嫉妬されたせいか、後に「殺人者であった」「牢獄で作っていた」などとも言われています。しかし、実際のところは何も解明されていないのです。

 彼の作品を初期からたどってみると、表面上は、不十分な仕上げと思われるような刃物の跡が大胆に残っていることや、歪んでいるところ、型を崩しすぎているように見えるところもあるのですが、音に影響を及ぼす重要な部分は、傑出した最高水準の技術と完成度を誇っていた事がわかります。そして何よりも、作品としての圧倒的な力強さを感じる事ができます。

 また、当時認められていなかった事実なのですが、唯一、「アントニオ・ストラディヴァリ」だけが、デルジェスの才能を評価していたと思われます。特に楽器の隆起の部分では、黄金期以降の彼の作品に大きな影響を及ぼしたことは明らかです。それまで、多くの制作者達は、隆起を丸いハイアーチにしてきたのですが、デルジェスは極めてフラットなロウアーチにすることで音に力強さを与えました。そこでストラディヴァリは、真ん中をフラットにし、程よい高さのアーチ、すなわち台形型の隆起にする事で音色と力強さを両立させたのです。おそらくあまりに高い水準にあったデルジェスの才能は、同じ天才、ストラディヴァリにしかわからなかったのでしょう。


 この、“ex Midori”は、デルジェスの王様“ex King”をはじめ、“ex D,Egville”、“ex Plowden”などと同じ、1735年に製作されました。特に“ex Midori”と“ex King”のスクロールは瓜二つで、これらは二つ同時に製作された可能性が高いと考えられます。この年代のデルジェスは比較的黄金期の中でも初期のもので、バランスが良く、その均整のとれた丁寧な仕上げからは、安定した精神性を感じることができます。また、音の面ではデルジェス特有の、何か内面にあるヒューマニズムを映し出すような奥深さや、高い芸術性の中にも野性的で大胆かつ豪快な勢いと、高音の輝きやその美しさを両立させています。その他に、初期の作品としては、“ex Kreisler”が有名です。
“ex Midori”の楽器の状態は、裏板は無傷、表板の魂柱部に小判パッチとその他数ヶ所の小さな割れがあるだけで、この年代の楽器としては極めてよい状態と言えるでしょう。

 五嶋みどりさんは、この楽器をラルジュが販売することになるまでの約27年間所有してきました。12歳の時、弦が二度切れても止まる事なくコンチェルトを弾ききり、一躍世界の「Midori」になった、あの伝説のタングルウッドのサマーフェスティバルでもこの楽器を使用していました。
当時の新聞等では、使用された楽器が分数の楽器だった、と書かれておりますが、この楽器のボディーサイズは350mmで、少し小さめのサイズではありますが、デルジェスとしては、通常サイズと言っていいでしょう。この楽器の音は、CD「ライブ・アット・カーネギーホール」「ドボルザークのヴァイオリン協奏曲」等でも、聞くことができます。なお、この楽器は五嶋みどりさんが所有する以前に、ヴァイオリニストのフェルディナンド・ダヴィッドが使っていた事から、“ex David”とも呼ばれております。











五嶋 みどり


1982年、ニューヨーク・フィルとの共演でデビュー。以来指揮者ではバーンスタイン、アバド、メータ、小澤、ラトル、ヤンソンス、器楽奏者ではスターン、ズッカーマン、ヨーヨー・マ、オーケストラではベルリン・フィル、ウィーン・フィル、パリ管、コンセルトヘボウ管をはじめ多くの著名な音楽家との共演を重ね、室内楽にも力を注ぎ、幅広い演奏活動を続けている。日本国外では Midori の名前で活動。

年間70回以上の演奏活動に加えて、コミュニティー・エンゲージメント活動(地域密着型の社会貢献活動)にも積極的に取り組み、1992年ニューヨークに非営利団体「Midori&Friends」を、同時に東京に「みどり教育財団東京オフィス」を設立。2002年からは、NPO法人「ミュージック・シェアリング」として「みどり教育財団」の活動を引き継ぎ、2006年からはアジア圏でもICEP(インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム)を展開している。その他にも、米国ではPiP (パートナーズ・イン・パフォーマンス)、ORP(オーケストラ・レジデンシー・プログラム)、URP(ユニバーシティー・レジデンシー・プログラム)など、目的に合わせてさまざまなプロジェクトを企画、団体を組織するなど、常にコミュニティーを意識したみどりの音楽活動は、多くの音楽家に影響を与え、社会的に支持を得ている。

2004年、南カリフォルニア大学(USC)ソーントン音楽学校の「ハイフェッツ・チェアー」に就任、現在は弦楽学部学部長を務める。その他にも世界各地でマスタークラスを開くなど、後進の指導にも余念がない。
CDはソニー・クラシカルよりリリース。趣味は読書、観劇。2007年9月より国連平和大使を務める。

五嶋みどり オフィシャルウェブサイト









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参考文献
「Universal Dictionary of violin & bow makers」  著 William Henle
「Liuteria Itariana」  著 Eric Blot
「L’Archet」  著 Bernard Millant, Jean Francois Raffin